その日、オレは東京タワーに居た。別にデートというわけではなかった。盟友・秋山を東京案内するために訪れたのだった。久しぶりの東京タワー。間近で見ると、やっぱりデカい! 目の前から伸びる鉄柱が上空めがけて描く曲線は、セクシーですらある。
秋山「いやあ、近くで見るとすんごい建物なんッスねえ! なんか、この鉄柱、女の脚みたいな感じしません?」
表現方法は違うが、同じことを思っていたオレ。感性レベルは秋山並ということか…。
本田「驚くのはまだ早いよ。上の登るともっとビックリするゼ」
ウィンクして見せた。秋山はキョトンとしていた。キメたはずだったんだけどなあ。
蝋人形館やらトリックアートの展示場、水族館、土産物屋などを見事にスルーして、展望エレベーターに乗り込む。
本田「おい、何やってんだよ。行くよ!」
やっぱり、秋山は土産物屋で捕まってしまった。
秋山「あの旗みたいなの実家にあったんッスよねえ」
秋山が指差したのは、『東京』とプリントされたテナントだった。カンベンしてくれよ、まったく…。
エレベーターは高速で上がって行った。ドアが開くとそこは展望階。まさに、東京を一望できるパノラマ・ビューが眼前に広がる。何とかは高いところが好きと言うが、秋山は、まさに水を得た魚のようであった。
秋山「お、お、あそこのビルはこの間、張り込んだとこじゃないッスか! こっから見てもゴッツイもんなあ。張り込みづらかったわけだよ。アレ、ねえ、ねえ。その辺りがアンサーのあるとこッスよねえ。っていうことは、新宿の事務所はっと。…ああ、都庁のとこだから、あそこら辺ッスね! アレ? 本田さん、どうしたんッスか? 何そんなとこに突っ立ってるんッスか? ホラ、一緒に見ましょうよ。道のこととか説明してくださいよ。上から眺めることなんって、なかなか出来ないんッスから」
秋山は強引にオレを誘ってきた。やめろ、やめてくれぇ~!
本田「い、いや、ちょっと、ひとりで楽しんでてよ。すぐ行くから…」
しかし、秋山は聞こうとしない。オレのそばまで来て、ふと、下に目をやった。
秋山「あ、ここ、真下が丸見えじゃないッスか! ひょ~、高ぇ~!」
東京タワーには、足元から真下が見えるように、強化ガラスの張られたところがある。オレは、まさに、その強化ガラスの上に立っていた。
秋山「ちょっとどいてもらえません? オレもそこから真下が見たいッスよ!」
本田「いや、あっち見てきなよ。ホラ、早く!」
秋山「何で、どいてくんないんッスか? ちょっと立たせてくださいよぉ~」
本田「い、いいから、行けよ。行けってば!」
秋山「何でッスかあ? おかしいッスよ? 本田さん、ちょっと様子が…」
秋山は、オレの足元に目をやっていた。小刻みに震えていることは、自分でも感じていた。
秋山「まさか本田さん…」
本田「う、動けないんだよ…。ちょっと、手を貸してくれる?」
秋山「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(あきれ顔)」
秋山の表情を見て、オレは深く傷つき、心で泣いた…。