マスコミの取材が殺到(?)しているアンサーに “まいうー”な話が舞い込んできた。
そのオファーとは、ある情報番組の生出演であった!
意気揚々とスタジオに向った所長・三沢。
一方、現場ではテレビ局がある恐るべき企てを目論んでいた。
視聴者も驚愕したその暴挙とは!?
「それでは当日、よろしくお願いいたします!」
さわやかな挨拶の言葉を残して番組クルーたちがアンサーを跡にした。
最初の取材依頼は電話での問い合わせ。
探偵バーという一風変わったコンセプトを紹介しつつ、
探偵稼業のおもしろ裏話を語って欲しいとのこと。
番組は、日本テレビ系で平日の夕方に毎日放映されている『汐留スタイル』であった。
しかも、この三沢にスタジオ生出演をしてもらいたいというではないか!
もちろん、秒殺で快諾。さっそく打ち合わせとなった。
予定されている放映日は水曜日。
パーソナリティーは『ホンジャマカ』の石塚英彦だ。
見た目どおり、脂が乗った人気タレント。相手にとって不足はない。
後日、店のVTR取材も敢行された。
局からの要請で本番にて紹介する“探偵の七つ道具”なども用意。
台本のFAXも受け取って準備万端整った。あとは、水曜日を待つばかり…。
生出演の日がやって来た。向った先は新開発都市の汐留にある日本テレビのスタジオ。
警戒厳重な入口でパスを受け取る。“選ばれし者”の愉悦を感じつつ、
ADに案内されて重い扉を開た。眼前に広がる決戦の舞台。さすがのオレも緊張してきた。
放映は15時55分から。まだ4時間近くある。
生放送での失敗は許されないため、リハーサルも入念なのだ。
「まだ時間はありますが、この次にリハが入るので、
台本によく目を通しておいてください」
アンサーでの打ち合わせ時とは一変してディレクターの表情も真剣そのもの。
おいおい、そんなに追い込まないでくれよ。プレッシャーかかるじゃん…。
はあ、一服したくなってきた。
「あのお、タバコはどこで?」
「ああ、おタバコは喫煙室でお願いしているんですよ。案内しますね」
ふたたびADの案内で喫煙室へ。といっても、日本テレビは異様にデカい。
廊下を進み、エレベーターで13階まで上がり、さらに廊下を歩いてようやく喫煙室に辿り着いた。
最近、張り込みをしていても、わざわざ家の外に出てきてタバコを吸う
“ホタル族”パパをよく見かける。ココ、日本テレビもまたしかり。
部屋の中は、ノンスモーカーから排斥されつつある喫煙者でいっぱいであった。
整備された汐留の風景を眼下に見下ろしつつ、タバコをくゆらす。
2本、そして3本目と、頭がクラクラするくらいの溜め吸い。
スタジオに戻ってタバコを吸いたくなったら、
またココまで来なきゃならなくなるから、ついつい…。
喫煙室を設けたら節煙できるっていうもんじゃない。余計、カラダに悪いよ。
副流煙で目も痛くなってきた。そろそろ戻るか。
さっきは気付かなかったが、喫煙室は、タレントの控え室と隣接しているフロアーにあった。
必然的に、前を通ってエレベーターに行くことになる。
扉に貼られた紙には、『牧瀬里穂様』、『草野仁様』など知ってる名前が続々。
あれ、『及川奈央様』? ってAV女優の?
まさか、天下の日本テレビがアダルトを撮ってるワケないと思うけど、気になる。
っていうか、生及川に会ってみたい!
しばらく部屋の前で待ってみたが、気配なし。すると、ADが、小走りでやって来た。
「ああ、三沢さん。そろそろお願いいたします!」
うう、お、及川奈央様…。下唇を噛み締めてくやしがる。
「わかりますよ。気合い入っちゃいますよね(笑)。
でも、あまり緊張しないで、リラックスしてくださいね」
そうじゃないんだって!
スタジオに戻ると、ディレクターがより一層、真剣な表情で話掛けてきた。
「まずマイクを着けさせてもらいますね」
ベルトにトランスミッターを着けてマイクは襟元に。
「じゃあ、何かしゃべってください」
「あ、あ、アメンボ赤いなあいうえお!ただいまマイクのテスト中!」
「どうですか音声さん。変調具合もチェックよろしく」
変調? 何、変調って?
「マイクはOKです。
では、お持ちいただいた七つ道具をこちらのテーブルに並べてもらえますか」
あ、はいはい。これが、コンクリート・マイクで、こっちが、変装用のメガネと…。
「あ、そうそう。変装用と言えばなんですが、これをご用意したんですよ」
ディレクターが差し出したのは、ニットキャップとサングラス。え、何これ?
「やはり探偵さんが顔を出して出演されてはリアリティーがないですからね。
お顔を隠してもらいたいんですよ」
エエエエエエエエエーッ!
「か、顔出してもいいんですよ。別に。って言うかむしろ」
「いや、やはり、出さない方が説得力ありますから。よろしくお願いします」
「自前のものがあるんですが、これでどうですか?」
七つ道具と合わせて持ってきた、紳士帽と丸目サングラスを差出し、妥協案を出してみた。
さすがに、スーツとニットキャップじゃ、トンチンカン。これの方がまだマシだ。
「あ、いいですよ。あと、これもお願いします」
って、オオオオオーイッ、マスクかよ! やり過ぎだって。しかし、問答無用。

すべてを装着して出来上がった出で立ちは、まるで『笑うせーるすまん』だった。
スタジオの中でひとり異様な雰囲気を醸し出す怪しい男。
VTR撮影のときに店でインタヴューを担当した女性レポーターからも痛い視線が突き刺さる。
「そ、その節はどうも…」
「あ、あれ?三沢さんだったんですか?
そんな格好してるからわからなかったですよ(笑)」
いや、してるんじゃなくて、させられたんですけど…。
「なんかあっちから聞こえてくる三沢さんの声もおかしいんですけど(笑)」
音声さんが調整しているスピーカーから流れるオレの声は、超高い子供声。
ヘリウムガスを吸って話してるような状態になっていた。
ああーっ、変調って、このこと?
台本にあった“M”っていうのも三沢を略したんじゃなくて、
番組内でも探偵のMさんと紹介されるのか?
こうして、とことん“三沢”を隠されて本番に臨むこととなったオレ。
自称“イケメン”探偵のプライドを大いに傷つけられ、サングラスの奥で涙を流した。
そして、舞台の中心で叫んだ。
「顔、出させてくださ~い!」
マイクを通じて流れたオレの叫びは、
失笑を誘うヘリウム・ボイスであったことは言うまでもない…。
<次回、番組裏話編に続く>